唐招提寺金堂の落慶記念によせて
唐招提寺は風格のあるお寺です。奈良の寺院のなかで、僕はこのお寺が一番好きです。しかし、「天平の甍」で有名な金堂は、2000年から平成の大修理のために、長い間拝観できませんでした。2009年にようやく修理が完成し、再び唐招提寺は全景を現すことになりました。2009年の11月3日に催された落慶記念式典に幸いにも参加する機会を得ました。
招待者は金堂の前庭に椅子を設置して、そこに坐りました。当日は幸いにも晴天でしたが、寒波が襲来したような冷たい一日でした。午前中は日本人僧侶による法要があり、午後からは中国の大明寺による落慶法要が行われました。特に鑑真が渡航前に在住した大明寺の僧侶による法要は、声明のような美しくも厳かな響きで印象的でした。中国僧の参加もあって国際性を感じさせる式典で、天平の時代にもこのような感じだったのかと想わされました。
僕はこの金堂の建立に鑑真がどの程度関与したのかは知りません。しかし、鑑真が危険を顧みず、仏法を伝えようとしたこと、また、和上として戒壇院で具足戒を授ける儀式を主催したこと、また、鑑真の人柄を慕う僧侶や人々が存在したこと、そのことがなければ今の唐招提寺は存在しなかったことは確かです。式典全体を通じて、主役ともいえる鑑真の精神が伽藍に漂っているような気がしました。新たにされた「平成の甍」の除幕は、五色のテープで参加者全員が結縁を結ぶように行われました。はるか昔、東大寺の大仏殿の開眼式では、インド僧の菩提僊那が導師をつとめました。バラモン僧正と呼ばれた菩提僊那のもつ開眼のための筆には、紐が結びつけられ、その末端を、聖武太政天皇以下参列者が手にしたと伝えられています。そう思うと、何か歴史的事跡に参加しているような気がしました。
除幕と同時に金堂の甍に届かんばかりに散華が舞い散りました。あたかも、鑑真を慕い天から花が舞い散ってきたようで、おもわず、カメラのシャッターをきりました。
初冬に 和上を慕い 散華舞う